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サイエンス

ゲノム編集技術とは?~その原理と応用

2016/06/11

20150109ゲノム編集

アメリカの科学雑誌「サイエンス」で、2015年度の科学分野における最大のニュースとしてゲノム編集が挙げられています。

ゲノム編集は医療分野や農作物の品種改良など幅広い分野で応用が広がっています。
    
    

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ゲノム編集技術の原理

ゲノムとは、細胞の中にあるDNAで書かれた遺伝情報一式のことで、いわば生命の設計図のようなものです。

ゲノム編集はこの設計図の中の多くの遺伝子のうち狙ったもの自由自在に書き換えることができ、まるでワープロで編集するようなことができる技術です。

書き換えに使う道具は、はさみの役割をする酵素です。酵素を細胞に注入すると、標的とする遺伝子を見つけ出し、その場所に付着して切れ目を入れるように設計されています。

特定の遺伝子を削除したり、別の遺伝子に置換えたりすることも可能で、遺伝子情報を自由自在に改えることができます。

出典 NHK

ゲノム編集は、1996年に開発され、2012年には、クリスパーキャス法という、より簡単にできる画期的な手法が発表されたことで、急速に使われるようになりました。

このクリスパー・キャスシステムの発見者のシャルパンティエさんとダウドナさんはノーベル賞が期待されています。

ゲノム編集技術は遺伝子組み換え技術とどのように違うの?

これまでの遺伝子組み換え技術では、例えば農薬に強い大豆や害虫がつきにくいトウモロコシなどが作られてきました。

これらは、生物のもつ特性を変えるために、遺伝子の中の特定の場所に別の遺伝子を組み入れたものですが、狙ってこの場所に入れるということは簡単ではなく、何千回、何万回という試行錯誤を重ねて、突然変異によって可能となる、いわば偶然に頼ったものでした。

これに対してゲノム編集技術は偶然ではなく、狙った遺伝子だけをピンポイントで変えることができる画期的な遺伝子操作技術です。

ゲノム編集技術は、遺伝子組み換え技術の数百倍から数千倍の高い精度で操作ができ、効率を飛躍的に向上させることができます。

ゲノム編集技術を用いた遺伝子治療

ゲノム編集は病気の治療でも応用されています。

エイズ

エイズウイルスは、細胞の表面にある窓のような部分から体内に入り込み、ウイルスを増殖させます。
この窓は遺伝子から作られていて、この遺伝子を切断すれば、窓は作られなくなるので、エイズウイルスは細胞内に入れず、増殖しないと考えられます。

米国ではこの方法を使って安全性などを調べる臨床試験に入っています。
日本でも研究がおこなわれています。

筋ジストロフィー

京都大学が2014年、筋ジストロフィー患者のiPS細胞を作り、ゲノム編集で遺伝子異常を修復。正常な筋肉の細胞に成長させる実験に成功しています。

白血病

米国ではゲノム編集を取り入れた白血病治療の研究が行われています。

白血病は、血液を作り出す骨髄の細胞ががん化し、血液が正常に作れなくなる病気です。
骨髄の細胞ががん化すると、がん細胞を攻撃するはずの免疫細胞の働きが低下するので、がん細胞が増殖します。

この免疫細胞にある遺伝子を加えると免疫細胞の働きが高まり、がん細胞の増殖を止める効果があることが分かってきており、ゲノム編集により免疫細胞に遺伝子を入れようという試みが行われています。

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ゲノム編集の応用

農作物の品種改良

農業生物資源研究所では、(1)アレルギー物質を作らない、(2)除草剤に耐性を持つ、(3)花粉が飛散しにくい、など優れた性質を持つイネの新品種の開発に次々と成功しています。

ほかの農作物では、張りを失わせる植物ホルモンの働きを抑制し、日持ちを良くしたトマトや、芽に有害物質を含まないジャガイモなどが登場しています。

米国では初のゲノム編集作物として、除草剤をかけても枯れない菜種が発売されたり、
トランス脂肪酸を含まない大豆が開発されたりしています。

水産業では激しく泳がず養殖しやすいマグロの開発が進んでいます。

薬、化粧品

良質なタンパク質を生産するカイコに外部から遺伝子を導入すれば、薬品などの有用物質を作る「生物工場」として利用できます。
すでに血液検査薬や化粧品の生産に成功し、販売されています。

藻の油の量を増やす

中央大学理工学部の研究室では、内部に油を多く含む藻をゲノム編集技術を使ってより多くの油ができる研究を行っています。

この藻は乾燥させると油を取り出すことができ、大量に作ることができれば、自動車の燃料としても使用可能です。

この藻は、油のほかに、デンプンも蓄えていますが、ゲノム編集によりデンプンを作る遺伝子が働かなくするように遺伝子操作を行い、従来よりも油の量を1.5倍にすることができました。

マダイを大きくする

京都大学と近畿大学が共同で、受精卵の中のオスタチンという筋肉の成長を抑える遺伝子をゲノム編集技術を使って切ることにより、1.5倍の大きさのマダイを作ろうとしています。

ゲノム編集が行われてから半年の時点で普通のマダイと比べて、すでに大きくなる傾向が見られています。

ゲノム編集の課題

ゲノム編集でできないことは、ほとんどなくなったと言われています。
世界中で競って研究が進められていますが、「どこまでやっていいのか」という
利用に関する世界的なガイドラインが確立していません。

特にヒトの受精卵のゲノム編集は、生まれてくる命を自由にデザインする可能性につながり、人間が神の領域に踏み込んだという声も出ています。

ゲノム編集は多くの分野に渡って役立つ技術なので、使い方について一般の人々も含めた幅広い議論を始める必要があるようです。

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-サイエンス