生のエビやカニを見たことはありますか?
種類によっても少しずつ違いがありますが、生のエビやカニの多くは、灰色や茶色などの地味な色をしています。
例えば、スーパーの魚売り場などで多く出回っているブラツクタイガーという種類のエビ
は、その名の通り、青味を帯びた黒色です。
ところが、これをゆでたり焼いたりして加熱すると、みるみるうちに鮮やかな赤色に変化します。
ここでは、エビやカニをゆでたりして加熱するとなぜ赤くなるのかを記載しています。
ゆでると赤くなるのはなぜ?
カニやエビなどの甲殻類は、外骨格と呼ばれる堅い殻を持っていて、この外骨格の色は周囲の景色に溶け込むために目立たない茶色や灰色をしています。
甲殻類の殻の色素の中には、アスタキサンチンと呼ばれる赤色の色素も含まれています。
生のエビやカニなどの甲殻類の殻に含まれるアスタキサンチンは、タンパク質と結合した状態で存在しているため、アスタキサンチンの赤色は見えず、青みがかった黒色に見えるのです。
このタンパク質は熱に弱いため、ゆでるとタンパク質の部分がこわれて、アスタキサンチンから離れ、アスタキサンチン本来の赤色が現れます。
ゆでずに焼いた場合には、タンパク質から離れたアスタキサンチンがさらに空気中の酸素と結びついて、鮮やかな赤色のアスタシンに変化します。
タンパク質の変性は、ゆでたり焼いたりした加熱時だけに起こるのではなく、酸につけたときや鮮度が落ちてくる過程でも起こります。
エビやカニはなぜ、アスタキサンチンを含んでいるの?
エビやカニは体内で、アスタキサンチンを合成しているわけではありません。
自然界でアスタキサンチンを生成できる生物は、ヘマトコッカスなどの藻類だけです。
アスタキサンチンを作り出す藻類をプランクトンやオキアミなどの甲殻類が食べ、それをエビやカニが食べるという食物連鎖に沿って、アスタキサンチンは上位の生き物の体内に蓄積されていき、最後に人間の食卓に上ります。
カニ、エビ以外でアスタキサンチンを含んでいる食べ物は?
カニ、エビ以外でアスタキサンチンを含んでいる食材は、タイ、サケ、イクラなどです。
自然界で生息しているタイは、アスタキサンチンの赤い色素を持つエビなどを餌としているので、その色素が体内に取り込まれ、表面が赤色になっていきます。
しかし、養殖されているタイは、通常イワシなどのアスタキサンチンが含まれていない餌で飼育されるため、表面が赤くなることはなく、黒っぽい魚に成長します。
このため最近では、藻類から抽出したアスタキサンチンを餌に混ぜることにより、色素を体内に取り込ませ、表面を赤く色づけしています。
サケの身が赤いのも、アスタキサンチンの色素によるものです。
川で生まれたばかりのサケは白身ですが、海に出てエビなどを食べることで色素が体内にたまっていき、赤身になります。
イクラは、メスのサケのアスタキサンチンが卵へ移動して赤くなります。
タイやサケのアスタキサンチンは、タンパク質と結びつかないので、初めからきれいな赤色なのです。
アスタキサンチンの働き
アスタキサンチンは、1938年にオーストリアの学者により発見されました。
1980年代になって、その抗酸化作用がβ-カロテンやビタミンEの100~1000倍近くあるとの研究報告がなされ、一躍脚光を浴びた栄養成分で、緑黄色野菜などに多く含まれるβ-カロテンやトマトに多く含まれるリコピンなどと同じくカロテノイドの一種です。
免疫力強化、抗がん、動脈硬化の改善、糖尿病予防、美肌効果などの報告があり、アスタキサンチンを配合したサプリメント、健康食品、スキンケア用品などが販売されています。
まとめ
エビやカニをゆでるとなぜ赤くなるのは、アスタキサンチンの色素によります。
生のエビやカニでは、アスタキサンチンはタンパク質と結びついているため、赤く見えませんが、ゆでたりして加熱すると、タンパク質が変性して、アスタキサンチンが解放されるため、アスタキサンチン本来の赤色が現れます。