冬になると、ドアのノブに手を触れた瞬間にバチッときたり、セーターを脱ぐ時にパチパチと火花が飛んだりしますが、これらは静電気の仕業です。
日常生活での静電気の悪さといえば、これらのちょっとした感電程度です。
しかし、時に静電気は非常に深刻な事態を引き起こすことがあります。
その1つが、静電気の火花による引火事故です。
燃えやすいガスのある環境では、静電気による火花放電が発生すると、それが着火源となって火災事故や爆発事故が発生することがあります。
ここでは、セルフ方式のガソリンスタンドでの人体で発生した静電気による、火災、爆発事故について記載しています。
なぜ人体に静電気が溜まるの?
静電気が発生する原理
すべての物体は原子で構成されています。
その原子には、マイナスの電子とプラスの陽子で構成された原子核が含まれます。
通常は、マイナスの電子とプラスの陽子の数が同じ量だけあるため、電気的には中性の状態に保たれています。
しかし、2つの物体AとBをこすり合わせると、物体Aの電子がもう一方の物体Bへ移動します。この時、物体Aはプラスに物体Bはマイナスに帯電します。これが静電気の発生です。
静電気という名称は、プラスとマイナスに帯電したまま移動しないことからついたものと考えられています。

出典:http://www.keyence.co.jp/
プラスに帯電するか、マイナスに帯電するかは各々の物体の電子との結びつきの強弱により決まります。
静電気がたまりやすい人とは?
人体に静電気がたまりやすいかどうかは、普段着ている衣類の素材や空気、皮膚の乾燥状態により決まります。
衣服
物体には、プラスに帯電しやすいものと、マイナスに帯電しやすいものがあります。
よく知られているのが、それぞれの極性に帯電しやすい物質を順番に並べた帯電列と呼ばれる下のような表です。
発生する静電気は表中の距離が離れているほど大きく、近いほど少なくなります。
つまり、帯電列の中でプラスとマイナスの両端のもの同士がこすれあうと、より大きな静電気が発生するわけです。
一般に天然素材の衣服では、静電気の発生は少なく、合成繊維の衣服では静電気は発生しやすくなります。
この表により各物質の極性と帯電量の多少がある程度までわかりますが、実際には表通りにならない場合があります。
それは物体の表面の状態が均一でないとか、その物体に触れる前に、他の物体に触れたことにより、状態が変わるなど、いろいろな原因が考えられます。
空気、皮膚の乾燥状態
静電気は一年を通して発生しますが、特に冬場に溜まりやすくなります。
静電気は湿度が高いほど発生しにくくなり、乾燥して湿度が低いと発生しやすくなります。
湿度が高いということは空気中に水分が多く含まれているということです。
湿度が高くて水分が物体の表面に多くあると、物体に発生した静電気はすばやく分散して、静電気がたまりにくくなります。
夏場は空気中の湿度が高いことや、体から汗が出るので、それを通して静電気は自然に分散して消滅してしまいます。水分は電気を通しやすく、発生した静電気は水を伝わって逃げていくので、湿気の多い状態では静電気は溜まりにくくなるのです。
冬場の湿度が低い環境では、少し体を動かすだけで数kV~数十kVの非常に高い電圧の静電気が発生することがあります。
人体から他の物体への放電
人体に溜まった静電気が他の物体に向かって放電するとき、人体がビリッと痛みを伴う電気ショックを受けます。
ドアノブや自動車の車体ヘの接触、衣類を脱ぐ時などが、静電気による放電の代表的な例です。
ドアノブが金属製の場合、プラスに帯電した人が指を近づけると、導体である金属内部で静電誘導が起き、マイナスの電荷がドアノブの先端に集まってきて、指との間の距離が短くなると、放電します。
同様に静電気に帯電した人が給油のためにガソリンタンクのキャップを開けるとき、手先が金属部に近づくと放電が発生します。
一般的に人体は静電気の電圧が3kV以上で放電すると痛みを感じると言われています。
ガソリンスタンドで静電気による爆発、火災事故が起きるの?
ガソリンの引火点は-40℃以下です。
引火点というのは物体に火を近づけた時、周りの空気と混ざって燃える最低温度のことです。
ガソリンは常温では液体ですが、水を空気中で放置すると蒸発するように、ガソリンもいくらかは蒸発して可燃性のガスになります。
ガソリンの蒸発したガスが空気と1.4~7.8%の範囲で混ざっている状態で、ある一定以上のエネルギーが与えられると着火して、爆発して燃え上がります。
このエネルギーは、人体が大体2 kVに帯電した場合の静電エネルギーにほぼ等しいのです。
少しでも痛みを感じるような静電気による放電があれば、ガソリンへの着火の可能性があります。
セルフ方式のガソリンスタンドで、給油をするために給油口のキャップを緩めた瞬間、給油しようとしていた人に帯電していた静電気がキャップ付近の車体金属部分に放電し、給油口から出たガソリンが蒸発した蒸気に引火することがあるのです。
ガソリンスタンドで静電気により、火災事故が発生するのは以上のような理由によります。
ガソリンスタンでの静電気対策
ガソリンスタンドの従業員の人は静電気が発生しないような繊維、構造のユニホームを着ており、導電性の高い材質で作られた靴を履いているため、静電気が溜まることはありません。
セルフ方式のガソリンスタンドでは、お客さんに静電気が発生しないような服装を要求することはできないので、給油前に静電気除去シートに触れるように要求されています。
通常、給油のために車を降りた後、車のドアの金属部に触れると静電気が放電します。
しかし、場合によってはドアに触れないことも考えられ、この場合、人体には静電気が溜まった状態になります。
このために、給油前には必ず静電気除去シートに触れるように要求されているのです。

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静電気除去シートの基材自体に導電性の材料が使われていたり、基材自体に導電性がない場合には、導電性の材料がコーティングされていて、シートとしては導電性があるようになっています。
静電気除去シートはアース線で大地にアースされていて、人体に溜まった静電気を大地へ逃がすようになっています。
地球は大きな導体であるため、静電除去シートと大地をアース線でつなぐと、静電気を大地へ放電することができるのです。
静電除去シートではドアノブに触れた時のように火花が出ないように、ゆっくり電気を逃がすよう工夫されています。
静電除去シートにより、静電気が放電する時間は一瞬ですので、静電除去シートに長くタッチする必要はありません。ほんの2、3秒で十分です。
また、給油中に歩いたりすると、その間にも静電気が溜まる可能性があります。
このため、給油ノズルのホースには静電気を逃がす仕組みがあり、ノズルからホースへアース線が通っていて、人体に溜まった静電気を地面へと流す機能を備えています。
このように給油終了後、ノズルを引き抜く際にも静電気で引火しないようになっています。
以上のように、セルフ方式での給油はやり方を間違えなければ危険なことはありません。ルール通りにやれば爆発や火災事故は起こりません。