ステンレスは台所の流しや包丁、装飾品に至るまで、幅広く使用されています。
ステンレスの正式名称は ステンレス鋼(ステンレススチール)といいます。
ステンレスの「ステン」は「さび」、「レス」は「~がない」という意味で、「ステンレス」は結局、「さびない」という意味になります。
鋼(スチール)は鉄そのものではなく、鉄をベースに微量の炭素が配合された合金のことです。
鋼は鉄でできていて、鉄はすぐ錆びるのに、ステンレスはなぜ錆びない、厳密に言うと錆びにくいのはなぜでしょうか?
ここでは、ステンレスが錆びない理由について記載しています。
鉄が錆びやすいのは?
金属が錆びるということは、金属原子が環境中の空気(酸素)や水分などと、腐食と呼ばれる、酸化還元反応を起こして、腐食物を作ることです。
金属原子の大部分は、金属単体で存在するよりも、イオン化して、酸化物、硫化物、水酸化物として存在する方がずっと安定なのです、
鉄は酸素(空気)や水に触れるとイオン化します。この時イオンが大気または水溶液に溶け出し、残された電子が腐食電流として流れることで錆が進行します。
鉄は赤錆で錆びた状態の方が、安定しているのです。
ステンレスが錆びない理由
クロムの役割
ステンレスは鉄を主成分とし、炭素を1.2 %以下、クロムを10.5%以上含む合金です。
現在最も一般的に使われているステンレスは18%のクロムと8%のニッケルが含まれているもので、18-8ステンレスと呼ばれています。
鉄は酸素(空気)や水分に触れると錆びますが、ステンレスはなかなか錆びません。
ステンレスが錆びにくいのは、ステンレスに含まれているクロムが鉄よりもイオン化して、酸化しやすいという性質があるためです。
ステンレスが空気や水に触れると、鉄より先にクロムがイオン化して、非常に薄い酸化皮膜の錆を生成します。
この皮膜は5nm(nm:ナノメートルは1mの10億分の1の長さ)程度の非常に薄い透明な膜で、ステンレスの腐食を防止し、光沢を保っていることが特徴です。
この皮膜は化学的に非常に安定していて、不動態皮膜と呼ばれています。
不動態皮膜のクロム含有率
ステンレスのクロム含有率は多くなればなるほど、浸食されにくくなり、含有率が12%を超えるとまったく浸食されなくなります。
含有率が12%のクロムのステンレスの場合でも、この皮膜の部分を分析すると、クロム含有量は90%にもなっています。
このように非常にクロムの含有率が多い皮膜で覆われているので、ステンレスは耐食性がよくなり、錆びにくいのです。
また、クロムの含有率が少ない低クロムでは、皮膜の構造は結晶質であるのに対して、クロム含有率が多い高クロムでは、アモルファス化(非結晶化)していき、いわばガラスのように欠陥のない薄くて、均一な膜になっており、膜の下地であるステンレスは直接外気と触れることはなくなり、これがステンレスの耐食性がよい秘密です。
クロムの不動態皮膜はヨロイの役割をして、ステンレスの表面を守っており、いわば、錆を持って錆を制すという考えを利用しているのです。
以上がステンレスが錆びない理由です。
不動態皮膜を使用した防食の例
不動態皮膜で守るという技術は多くの金属加工に利用されています。
アルミ
例えば窓枠などに利用されているアルミサッシがその一例です。
アルミサッシは風雨に当たっても錆びません。
アルミは鉄と同じように、本来腐食しやすい金属ですが、その表面を酸化物で覆うこと(アルマイト処理)で内部のアルミ金属を守っているのです。
チタン
チタンは、それ自体イオン化されやすく、空気、水と反応して、瞬時に表面に酸化皮膜を作ります。
この皮膜は非常に安定した不動態皮膜であり、酸素を通さないため、それ以上酸化しません。
表面に傷ができても瞬時に酸化皮膜ができて、自己補修されるため、いつまでも耐食性が維持されます。貴金属に匹敵する耐食性があります。
まとめ
ステンレスは、鉄、クロムなどからなる錆びにくい合金です。
主成分の鉄は錆やすいですが、ステンレスが錆びにくいのは、クロムの働きによります。
クロムは鉄よりイオン化しやすいので、空気や水分があると、鉄より先に酸化し、透明で光沢のある非常に薄い酸化皮膜の錆を生成します。
このクロムの酸化被膜は不動態皮膜といい、非常に安定しており、ステンレスの表面を保護します。
この酸化膜がヨロイなって、ステンレスの表面を保護しているのです。