夏の風物詩といえば、夏の夜、川辺を飛び回り、明滅する幻想的で小さな光を放つホタルがあります。
日本ではゲンジボタルやヘイケボタルが有名ですが、約40種類のホタルが生息しているといわれています。
ここでは、ホタルが光る理由や発光の仕組みなどについて記載しています。
ホタルはなぜ光るの?
ホタルが何のために発光するのかについては、さまざまな説があります。
ここでは、そのうち2つをご紹介します。
求愛
ホタルは夜行性で、オスは夜に飛び回りながらメスを探し、光の明滅でサインを送ります。
メスはほとんど飛ぶことはなく、植物の葉の上にいて、オスからのサインに対してサインを送り返しています。
光り方にはホタルの種類により異なります。
ゲンジボタルは弱く発光しながら、一定の間隔で強く光り、ヘイケボタルはゲンジボタルと同じような光り方ですが、より短い間隔で強く発光します。
ヒメボタルは一定の間隔で完全に光が消える光り方をします。
また、ゲンジボタルの場合、東日本では4秒間隔ですが、西日本では2秒間隔、これらの境にあたる地域では、3秒間隔のホタルも観察されています。
敵への警告
昆虫には、自分を目立たなくすることで、捕えようとする捕食者を避ける場合と、自分が毒などを持っていて、あえて目立たせることで捕食者に自分を避けさせようとする場合があります。
ホタルは後者の場合にあたります。
ホタルは、実は毒を持っているうえ、食べても非常にまずいとされています。
ホタルは、胸のオレンジ色で目立たせた上に、さらに光を放つことにより、捕食者に対して警告しているのではないかという説です。
ホタルの発光の仕組み
ホタルの光の発生源は腹部にある発光器にあります。
発光器は、発光するための発光細胞と光を反射する反射細胞、各々の細胞に空気を送り込む気管から構成されています。
発光細胞の中には、ルシフェリンと呼ばれる発光物質と、ルシフェラーゼという酵素があります。
酵素は、生体で起こる化学反応に対して触媒として機能するもので、それ自身は化学反応を起こしませんが、化学反応を促進したり、抑制させる働きがあります。
発光物質ルシフェリンはルシフェラーゼの触媒作用によって、生物の体のなかに広く存在するATP(アデノシン-三リン酸)と反応し、複雑な化学反応の過程を経て、最終的にオキシルシフェリンが生成します。
ATPは、全ての生物に共通のエネルギー源で、体内エネルギーの受け渡しには、このATPが作用しています。
生成されたオキシルシフェリンは、エネルギーの高い状態(励起状態)にあって、不安定なため、エネルギーの低い安定した状態(基底状態)になろうとします。
この時、エネルギーの差に相当する分が光として放出されます。これがホタルの黄緑色の発光です。
このようにしてできた光は、反射層で反射され、透明な表皮を透かして外部へ放出されます。
ホタルの光は化学的反応により発光するため、電球が発光する時のように熱が発生することはほとんどなく、560nm(nm:ナノメートルは1メートルの1億分の1の長さ)の波長の黄緑色で、冷光と呼ばれ、非常に高効率な発光です。
ホタルの発光には、マグネシウムイオンも必要で、マグネシウムイオンがないと、発光現象は起こりませんが、そのメカニズムについてはまだ解明されていません。
ホタルの発光色の違い
ホタルの大部分は、黄緑色の光を発しますが、中には赤みがかった光を発する品種がいます。
そのような品種の酵素ルシフェラーゼのアミノ酸配列は、通常のものとはわずかに違っています。
この変異型のルシフェラーゼでは、励起状態のオキシルシフェリンが基底状態に戻る時に、エネルギーの一部が光ではなく熱(または振動)エネルギーとして無駄使いされる結果、エネルギーの低い(波長の長い)赤色の光になるのです。
このように、発光酵素のアミノ酸配列のわずかな違いで発光色の違いが生じます。
ホタル以外の発光する生物
ホタルはあらゆる生き物の中でも、もっとも強く光るとされていますが、発光する生き物は、ホタル以外にも存在しています。
ホタルイカはホタルと同じように発光細胞を持っていて、その数は約1000個ときわめて多いです。また、2本の腕にとくに明るく発光する大型の発光器を3つずつ持ち、敵を威嚇するときに光らせます。有名なチョウチンアンコウも発光器を持つタイプです。
ウミホタルは、体の発光腺という分泌腺から、海水に触れると酸化して発光する液体を分泌します。キンオビイカも同じタイプで、発光液を吹き出すことで、そちらに敵の目を引きつけ、その間に逃げるなどして身を守っています。
さらに、生き物自体はその機能を持ちませんが、体内にすみついた細菌が光を発することで光っているものがいます。マツカサウオの下あごや、ヤリイカの全身が光っているのはこのタイプです。
まとめ
ホタルが発光する理由は、求愛、敵への警告など諸説あります。
発光物質ルシフェリンがルシフェラーゼの触媒作用によって、ATPと反応し、励起状態のオキシルシフェリンが基底状態のオキシルシフェリンへ変化する過程で、エネルギーの差分を光の形で放出するのが、ホタルの発光です。
発光色は黄緑色が多いですが、赤みがかったものもあります。これは酵素ルシフェラーゼのアミノ酸配列の違いによって起こります。