ミドリムシは体長0.05mmほどの小さな単細胞の微生物で、ワカメやコンブと同じ藻類の仲間です。学術名をユーグレナと言います。体内に葉緑体を持っているため緑色に見えます。
池や沼などの淡水にごく普通に生息し、現在分かっているだけで約4000種類が確認されています。
大きな特徴は植物と動物の両方の性質を兼ね備えていて、植物のように光合成をして糖類を作る一方で、ひげのようなベン毛があり、これにより水中を移動することができます。
ミドリムシには59種類もの栄養素が含まれていることが分かっています。これは人間が生きていくのに必要な栄養素の約半分にあたります。
日本では2005年に、株式会社ユーグレナが世界初となるミドリムシの食品としての屋外大量培養に成功し、これを使った多くの健康食品やサプリメントなどが販売されています。
ミドリムシは現在、食品以外にジェット機用燃料としての研究開発が行われていて注目されています。
ミドリムシがどのようにして燃料になるのでしょうか?
ミドリムシが燃料になる仕組み
通常の環境ではミドリムシは光合成を行い、二酸化炭素と水から酸素と糖を作り、酸素の一部を使って糖を燃焼させることで活動するエネルギーを得ています。
ミドリムシは光を遮断すると光合成ができなくなるので、酸素を作れなくなり、糖を燃焼できなくなります。そこで生き延びるために、蓄えていた糖をワックスエステルと呼ばれる油に作り変えるのです。作り変える時にエネルギーが発生するので、光と酸素がなくても生き続けることができるのです。
ワックスエステルは人間の顔や頭などの皮脂腺から分泌される脂質と同じものです。
有機溶媒を使って、ミドリムシからワックスエステルを抽出し、水素を添加して余分な酸素を除去する水素化と呼ぶ処理を行って燃料ができます。
ミドリムシ燃料のメリット
融点が低い
ミドリムシから抽出されたワックスエステルは比重が小さく粘り気が少なく、低温度でも固まらないという特長があり、ジェット機用燃料として適しています。
現在、天然の原油を精製して作られるジェット機用燃料の代替としては、とうもろこし、大豆、サトウキビなどのバイオ燃料が使用されています。例えば大豆から作った燃料の融点は約39℃であるのに対して、ミドリムシ燃料の融点は約19℃と低く、低温でも固まりにくく、他のバイオ燃料より、ジェット機用燃料として適しているのです。
食料との競合がない
従来から使用されているバイオ燃料の材料としては、サトウキビやトウモロコシなどがありますが、これらは、元々食料とすべきものを燃料として使用しているため、限られたスペースの中で農地の取り合いになり、食料価格の高騰をまねく原因になっています。
しかし、ミドリムシではこのような食料との競合はありません。ミドリムシは培養プールでの大量培養ができるため、効率的な工業生産が可能で、他のバイオ燃料と比較して敷地面積あたりの生産性が非常に高くなっています。
ミドリムシ燃料の課題
ミドリムシ燃料の最大の課題はコストです。
化石燃料に対してミドリムシから燃料を作る場合、コストが5~10倍高くなり、大量に低価格で生産する必要があります。
遺伝子組み換え技術を使って、通常のミドリムシより多くの油が作れるような研究開発が行われています。
ジェット機燃料を化石燃料からバイオ燃料に切換える背景
全世界で排出されるCO2の約2%が航空分野から排出されていて、2050年には現在の2~5倍に達すると予測されています。
航空機業界では、地球温暖化対策としてCO2削減が緊急の課題となっていて、化石燃料からバイオ燃料への切換えを急いでいます。
日本国内では2009年の日本航空に続き、2012年には全日本空輸と日本貨物空港がバイオ燃料による試験飛行を実施し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて本格運用を計画しています。
バイオ燃料は、大気中のCO2を光合成によって吸収した植物が原料となるので、燃焼によって排出されるCO2は地上に元々あったものと考え、バイオ燃料が燃焼した場合に排出されるCO2は排出したものとは見なさないことになっています。
これをカーボンニュートラルといい、国連によって認められている基本概念です。
バイオ燃料の一つとしてミドリムシから作った燃料が注目されているのです。
現在進行中のプロジェェクト
2015年12月に行政とベンチャー企業のユーグレナなど5つの企業が協力して、2020年実用化に向け、ミドリムシから作った油を燃料に利用しようとするプロジェクトが始まりました。
まとめ
ミドリムシは食品分野だけでなく、燃料分野でも研究開発が行われています。
これ以外に水質浄化、プラスチック、二酸化炭素の貯留など多くの分野への応用が見込まれ、今後も注目です。