コンパス (方位磁石)は、磁化した鉄、ニッケル、コバルトなどの薄片を自由回転針にして、針が地磁気(地球により生じる磁場)の南北を指すようにした道具で、方角を知るのに使います。
コンパスは、その原型となるものが3世紀頃から中国で使われ始めました。
そのメカニズムについては長い間不明なままで、磁石がなぜ地球の南北方向を向くのかについて科学的な解明が始まったのは、16世紀になってからです。
18世紀末から19世紀にかけて地磁気に関する観測と研究が進み、地球全体が一つの大きな磁石となっていて、磁界をつくっていることにより、コンパスが地磁気の南北を指すことが明らかになってきました。
北極はS極、南極はN極
コンパスのN極は常に北を指します。
それでは、地球の北極にはN極があるのでしょうか? それともS極があるのでしょうか?
N極のNはNorth のNだから、北極はN極で、S極のSはSouth のSだから、南極はS極と思っているかもしれませんが、これは誤りです。
北極にS極が、南極にN極があります。これは、磁石はN極とS極が引き合うということから明らかです。つまり、コンパスのN極が北極側にあるS極と引き合って北を向いているのです。
それでは、なぜ、コンパスの北を向く方をS極にしなかったのかという疑問が起きると思いますが、これは、地磁気が研究されるより前に、磁石の北を向く方をN極、南を向く方をS極と決めてしまっていたからです。
それでは、地球に磁気があるのはどのような理由によるのでしょうか?
地球は大きな磁石
昔、地球の内部には永久磁石があると考えられていた

出典:https://www18.atwiki.jp
その昔、地球の内部には永久磁石があると考えられていました。
地球の内部は、その中心からコア(内核、外核)、マントル、地殻の順番で層構造をなしていて、地球の核は鉄でできているので永久磁石になり得ますが、その考えは誤りであったことが分かっています。
永久磁石は、キュリー点と呼ばれる温度よりも温度が上がると磁性が失われます。
鉄でできた磁石の場合は、キュリー点は770℃です。
地球の内部の温度は3000℃以上なので、キュリー点をはるかに越えていて、磁性を保つのは不可能です。地球内部では、永久磁石は存在できないことになります。
そこで、現在考えられているのが、ダイナモ理論とよばれるものです。
ダイナモ理論とは?
出典:PHP研究所 左巻健男 (著, 編集)「面白くて眠れなくなる地学」
ダイナモ(dynamo)とは発電機の意味で、地球の核自体が発電して、その発電で得た電流で電磁石になるという説です。
電線を円形に巷いたものをコイルといいます。鉄芯にコイルを巻き、そのコイルに電流を流すと電磁石になり、磁界が発生します。
地球では、鉄でできた核の外部(外核)が液体になっており、核の内部(内核)は固体の状態です。
外核の鉄が磁力をもって対流すると電流が発生し、その電流が内核の鉄のまわりを流れると、電磁石が作られるという仕組みです。
電磁石は、高温になっても磁性がなくなることはありません。また、核内の液体の鉄の対流が変化すれば、磁極が移動したり逆転したりする現象も説明できるので、現在のところダイナモ理論が最も有力な説となっています。
地球の磁極は逆転する
私たちは、コンパスのN極は北を、S極は南を向くものだと思っています。
しかし、地磁気は逆転すると唱えた日本人がいます。地球物理学者の松山基範氏です。
兵庫県の玄武洞の岩石が地磁気と逆向きに磁化されていることを発見し、1929年に地磁気の逆転説を世界で初めて発表しました。
近年の研究で過去360万年の間に11回の地磁気の逆転が起っていることが分かっています。
地磁気の逆転は、磁極軸が突然180度回転するようなものではなく、全体の地磁気がだんだん弱くなってほぼゼロになった後、逆向きの地磁気が徐々に大きくなるという過程をたどるようです。
最近200年間の地磁気の変化を調べてみると、地磁気は徐々に弱くなっていて、今の傾向がそのまま続けば、あと約1000年でゼロになることが分かっています。
地磁気がゼロになるとどうなる?
地磁気がゼロになってしまうと、どんなことが起こるのでしょうか?
宇宙からは絶えず、生物に有害な宇宙線が降り注いでいますが、地磁気はこの宇宙線が地表に到達するのを防いでいます。
地磁気がゼロになると、宇宙線が地球に降り注ぐことになり、あらゆる生物に影響を及ぼすと考えられています。
地球になぜ磁場があるのか、地磁気の逆転がなぜ起こるのかなどの確かなメカニズムは、まだ十分に解明されていません。
まとめ
コンパス (方位磁石)のN極が北を示すのは、地球に磁気があるからです。
地球は北極がS極、南極がN極となる大きな磁石と考えることができます。
地磁気は、昔は地球に永久磁石があるためと考えられた時期がありましたが、これは間違いで、現在は、ダイナモ理論が有力説となっています。
しかし、正確なメカニズムはまだ解明されていません。