通常、ガスコンロ、オーブンなどを使って調理をするときは、食べ物の外側から熱を加えます。しかし、電子レンジの場合は、外側から食べ物に熱を加えることはなく、食べ物の内部から温まっていきます。
ここでは電子レンジにより食べ物が暖まる仕組み、原理をご紹介します。
電子レンジが食べ物を温める仕組み
電子レンジが食べ物を温めるのは簡単に言ってしまうと、例えば、手と手をこすり合わせると、手が温かくなります。これは摩擦熱が発生しているためです。この摩擦熱を、電子レンジは食べ物の分子レベルで発生させているのです。
電子レンジには、マイクロ波という高い周波数の電磁波を出すマグネトロンという部品が搭載されています。電磁波の中で周波数が300MHz(MHz:100万Hz)から300GHz(GHz:10億Hz)のものをマイクロ波と呼んでいます。
食べ物の中には、水分が含まれています。
水分子はH2Oという化学式で表されますが、酸素原子Oを中心に、“く”の字型に折れ曲がった構造をしています。
このため水分子全体の電荷分布は、プラスの電荷と、マイナスの電荷が対になっている電気双極子となっています。

出典:http://www.tdk.co.jp
この水分子にマグネトロンによりマイクロ波を照射すると、電界(電圧がかかっている空間のこと)が発生し、電界の反転に応じて電気双極子である水分子が回転、振動し、互いに摩擦しあって熱を発生します。これは電子レンジの誘電加熱と呼ばれるものです。
簡単にいうとマイクロ波のエネルギーが水分子に吸収されるわけです。

出典:http://www.iza.ne.jp
なぜ食べ物や飲み物だけが温められるの?
食べ物や飲み物の陶磁器などでできている食器には水分が含まれていないので、マイクロ波は食器を素通りしてしまい、温まることはありません。
お茶碗に入ったご飯を温めたら、お茶碗も温かくなったという人もいますが、それはご飯の熱が茶碗に熱伝導で伝わったためです。
電子レンジの周波数はなぜ2450MHz?
電子レンジのマグネトロンから照射されるマイクロ波の周波数2450MHz(=2.45GHz)です。
2450MHz(=2.45GHz)は1秒間に24億5000万回プラスとマイナスの極性が入れ替わる周波数です。
電子レンジで使用する電磁波などの電波は、その用途に応じて使用できる周波数は国際的に割り当てられています。
全世界で使用が可能なISM周波数は産業科学医療用に用意された2450MHz以上の周波数です。
その中の2.4GHz帯(2.4GHz-2.5GHz)はテレビやレーダー、長距離通信などの重要な目的での利用がなく、低出力の電波であれば免許を取得せずに、誰もが自由に使える周波数帯域とされ、安全上の限度値を満足していれば使ってよいことになっています。
このことから、電子レンジで2450MHz(=2.45GHz)が使用されるようになったのです。
正確に言うと、電子レンジの周波数は、2400-2500MHzの周波数帯域に入っていればよいのです。
しかし、現在では無線LANが同じ2.4GHz帯の周波数を使用していて、日常的に多くの機器が使う周波数帯域になってしまっています。
このため、電子レンジを使用中に無線LANによる通信が途切れたり、遅くなったりする可能性が出てきています。
電子レンジの寿命
電子レンジは多くの部品から構成されていますが、ほとんどの場合、電子レンジの寿命は
その心臓部であるマグネトロンで決まります。
マグネトロンの総作動時間は約2000時間です。一般家庭の使用頻度では、大体10年もつ計算になります。
マグネトロンの寿命が近づいてくると、出力が落ちて食べ物を温めるのに時間がかかるようになります。
電子レンジの一部のモデルでは、食べ物が庫内に入っていない状態での空焚きを防止する機能を備えているものがあります。
空焚きはマグネトロンに過大な負荷をかけることになるので、マグネトロンの寿命を縮める原因となるからです。
ターンテーブルがあるものとないものの違いは?
電子レンジには、庫内にターンテーブルがあって、食べ物が回転しながら加熱されるタイブのものと、ターンテーブルのないフラットテーブルで、食べ物は回らずに加熱されるタイプの2種類があります。
現在は、大型で内容量が23?以上のものがフラットテーブルで、それより小さなものではターンテーブルが採用されていることが多くなっています。
昔の電子レンジでは大部分のものはターンテーブル方式が採用されていました。
ターンテーブル方式
多くの場合、電磁波を発生するマグネトロンは電子レンジの天井部または側壁にあり、食べ物がいつも同じ位置に固定されていると、マイクロ波を均一に食べ物に当てることができないので、温まり方に偏りが出やすいのです。
このため、ターンテーブルで回転させてマイクロ波が均一に当たるようにしていました。
しかし、ターンテーブル方式には2つの欠点があります。
構造が複雑になって掃除がしにくくなるので、食材などによって庫内が汚れやすくなり、不衛生になります。
汚れやすくなると、その部分が異常過熱され、火災などの原因にもなります。
二つ目は、ターンテーブルがあると、大きな食材が調理しにくくなります。
庫内に食材が入っても、回転させようとすると引っかかってしまう場合があります。
ターンテーブがある場合、温められる食材の大きさは、ターンテーブルの直径で決まって
しまい、四隅のスペースが無駄になってしまいます。
フラットテーブル方式
フラットテーブル方式では、マイクロ波を照射するマグネトロンに工夫がされています。
これはメーカによりいろいろやり方は異なりますが、例えばマグネトロンの出力を底面に設置したアンテナを回転させて照射することにより、マイクロを均一にし、温まり方に偏りが出ないようにしているものがあります。

出典:http://www41086u.sakura.ne.jp
電磁波対策は?
電子レンジでよく言われるのが電磁波の問題です。
電子レンジの扉以外の5面は金属でシールドされていて、内部で発生した電磁波が外部に漏れないようになっています。
ドアの部分は内部の様子が見られるようにガラスが貼られています。
ガラスは電磁波を通しますので、ガラスの内側に金属のメッシュを入れることで、電磁波を遮断し、外に漏らさないようにされています。
網のような穴があいているものでも電磁波が遮断できるのは電磁波の周波数が2450MHzでは波長が約12cmであり、これより小さな穴からは電磁波はほとんど漏れることはないからです。ですから、金属板と同じような遮蔽効果があるのです。
また、ドアが開いている間はマイクロ波を発生させないような保護装置が取り付けられています。
以上のような対策をしても、電子レンジの外部へは僅かながら電磁波は漏れています。
しかし、その漏れは、国際的な基準の推奨レベルより十分に低いレベルとなっていて、きちんとドアが閉じている状態であれば、動作中の電子レンジの前にいても、人間には影響がありません。
以上電子レンジの仕組み、原理について記載しましたが、電子レンジは誤った使い方をすると、危険な場合があります。
これについては「電子レンジの発火、発煙の原因と対処方法」を参照してください。