フンコロガシは、哺乳類などのフンを食べる糞虫と呼ばれる昆虫の仲間で、フランスの生物学者アンリ・ファーブルの著書「昆虫記」の中でも取り上げられています。
ここでは、自然界の掃除屋とも呼ばれているフンコロガシが、なぜ自分の体の何倍もある大きな動物のフンを転がして運ぶのかを記載しています。
フンコロガシはなぜフンを転がすの?
自分の体の何倍も大きいフンを、コロコロと転がす姿は、一見ユーモラスに見えますが、フンコロガシにとっては、生きるための必死の行動なのです。
動物の排泄物であるフンには栄養が少ないため、そこから栄養を摂取しようとすると大量のフンを食べる必要があります。
その場で食べていると、鳥などの天敵に狙われやすくなり、また、他のフンコロガシに奪われる恐れもあります。
このため、フンコロガシは、自分の食料を必要量確保すると、安全な場所にたどり着いて、後でゆっくり食べられるようにするため、フンを丸めて転がしながら運ぶのです。
フンコロガシは、フンを発見すると、頭と前脚を突っ込み、フンを玉状にくり抜き、前脚でフンをすくって、くり抜いたフンの玉に張りつけて、玉を大きくしていきます。
こうして大きな球状のフンに後ろ脚を突き刺すと、前脚で地面を押しながら、後ろ向きにフンを転がして移動を始め、分速6~8mくらいの速さで、安全な場所へとフンを運びます。
地面の柔らかい砂地に到着すると、人間のこぶしくらいの大きさの穴を掘り、フンと一緒に穴に入って内側から入り口を塞ぎ、休むことなく、半日くらいかけてフンを食べ続けます。
フンは、フンコロガシにとって、エサとして以外に、産卵場所としても使用します。
先端をやや尖らせたフンの玉の中に卵を産みます。先端を尖らせることで、空気を必要とする卵に、空気の通り道を作ります。
また、長い距離を転がったフンは、表面が硬く締まりますが、内部は柔らかい状態を保つことができるため、産みつけた卵の乾燥を防ぐ効果もあります。
卵からふ化した幼虫は、内側の柔らかいフンを食べて成長し、やがてサナギとなり、成虫となるとフンを突き破って外に出てきます。
オーストラリアでの牛のフンの処理
オーストラリアにイギリス人が移住して、広大な牧場を建設した時に、牛のフンは大きな社会問題となっていました。
今でもそうですが、オーストラリアは人口よりも牛の数の方が多く、当然そのフンの量も半端ではありません。
機械によるフンの処理システムを作るにしても、フンの量が膨大なため、システムを設置するのに莫大な費用がかかります。
そこで、オーストラリアの生物学者たちは、フンコロガシに注目しました。
実は、フンコロガシは、種類によって、どのフンを食べるかが決まっています。
オーストラリアにはカンガルーのフンを食べるフンコロガシはいましたが、牛のフンを食べるフンコロガシがいなかったのです。
当時の生物学者たちは、世界各国を探し歩き、ついに牛のフンを食べる可能性のある3種類のフンコロガシを見つけ、オーストラリア内に持ち込んだのでした。
それらを無菌状態で増やし実験したところ、その3種類のうち1種類が牛のフンを食べることが分かりました。
それがガゼラエンマカガネというフンコロガシで、見事に牛のフンの処理問題を解決しました。
奈良公園の鹿のフンの処理
日本には動物のフンを食べて生活しているフンコロガシなどの糞虫が160種類知られています。
そのうち、奈良公園には46種類が生息しています。
奈良公園には、約1200頭の鹿が生息していますが、これらは飼われているのではなく、全て野生の鹿です。
奈良公園内の鹿は、1年間に約300トンのフンを排泄するといわれています。
フンの清掃をする人がいるわけではないので、本来なら奈良公園はフンだらけになっているはずですが、実際にはそうなっていません。
これは、全て糞虫が食べて分解しているからです。
まとめ
フンから栄養を得ているフンコロガシは、栄養が少ないフンを大量に食べる必要があります。
また、身の危険を避けるためや他の動物に餌を奪われないようにする必要があります。
以上のことが、フンコロガシが、なぜ大量のフンを丸めて、転がして運ぶ理由です。
フンコロガシは、オーストラリアの牛のフンの処理、奈良公園の鹿のフンの処理など、自然界の掃除屋としての役目を果たしています。