カブトガニは2億年前から生息していて、シーラカンス、オウムガイとともに生きている化石と呼ばれています。
生きている化石とは何億年も前に繁栄し、現在もなおその姿を変えずに生き続けている生物のことです。
名前にカニがつきますが、カニの仲間ではなく、クモやサソリに近い節足動物です。
カブトガニは生きている化石として貴重な生き物ですが、それ以外ではあまり利用価値がないものと以前は考えられてきました。
しかし、カブトガニの血液は人類に大きな貢献をしています。
ここでは、カブトガニの血液が何に使われているかについて記載しています。
カブトガニの生息地
カブトガニは、北アメリカの東海岸とアジア大陸の東南海岸だけに4種類しかいません。
米国、メキシコの東海岸では、アメリカカブトガニが、日本、台湾、中国、フィリピン、ボルネオ、インドネシアではカブトガニが、インドのベンガル湾沿岸、ミャンマー、タイ、マレーシア、インドネシアではマルオカブトガニやミナミカブトガニが生息しています。
カブトガニは波の穏やかな浅海に広大な干潟と砂浜があるところに生息していて、日本では、元々瀬戸内海一帯と北九州の一部に棲んでいましたが、生息地が次々と埋め立てられ、現在では岡山県、山口県で多く見られます。
現在日本ではカブトガニは絶滅危惧種に指定されていて、佐賀県伊万里市と岡山県笠岡市の繁殖地が国の天然記念物に、愛媛県西条市の繁殖地が県の天然記念物に指定されています。
カブトガニの生態
カブトガニは、一年中干潟などで生活しているわけではありません。
水温が18℃以上になると活動を開始し、活動期は6月中旬から9月いっぱいです。
海水の温度が低下するとともに、沖合いの少し深いところにもぐって、餌も食べずに冬眠に入ります。
カブトガニは海中の生きている生物を食べます。視力があまりよくないので、餌を探すようなことはしないで、海底を動き回って胸肢(きょうし)に引っかかったものを食べます。
1~2歳の幼生は、主としてプランクトンや微生物などを食べ、3歳以上になるとゴカイなどの環形動物を食べます。
カブトガニは生きている化石として貴重な生き物ですが、それ以外ではあまり利用価値がないものと、以前は考えられてきました。
日本では農作物の肥料にしたり、夜尿症の薬として殻を粉末にしたものを子供に飲ませるくらいでした。また米国ではウナギの餌にしていたようです。
しかし、その後カブトガニの血液が医学や薬学で脚光を浴びるようになってきました。
カブトガニの血液が脚光を浴びる
人間などの血液には体内に酸素を運ぶために鉄分を含むヘモグロビンが入っているため、赤色に見えますが、カブトガニの血液には鉄の代わりにヘモシアニンという銅の成分が入っていて、これが青色に見えるのです。
1956年に、米国の研究者により内毒素((エンドトキシン:細菌内に含まれる毒素のこと)がカブトガニの血液を凝固させる成分があることが突き止められました。
内毒素は通常は細胞壁に付着して直接微生物から分泌される毒素ではないので、外部には影響を及ぼしませんが、この成分に免疫系が反応して重篤な症状を起こすことがあるので、毒とされています。
その後の研究により、アメリカカブトガニの血液から取り出したライセート(LAL:カブトガニ血球抽出成分)試薬により、短時間で細菌の存在を確認することが可能となり、様々なところに利用されるようになりました。
カブトガニの血液は何に使われる?
カブトガニの血液は様々な分野、特に医療分野で利用されています。
医療機器、薬品の内毒素の検出
内毒素(エンドトキシン)が体内に入ると免疫系が反応して重篤な症状を引き起こすことがあるので、医療現場では人工腎透析膜のような医療機器や患者に投与する輸液、注射液、ワクチンにはエンドトキシンフリーであることが求められます。
ライセート試薬を使用することにより内毒素があると、ライセート試薬が反応してゲル状に凝固するのでその存在を知ることができます。
以前はこの検出にはウサギを使っていました。
ウサギに内毒素を接種すると、発熱するという現象を利用していました。
ウサギを使用した検査では48時間もかかってしまいますが、ライセート試薬では1時間以内で検出することが可能となりました。
食品
輸入肉や牛乳などの食品の細菌汚染にライセート試薬が使用されています。
水質検査
水道水、井戸水などの検査にライセート試薬が使用されています。
宇宙分野
NASAの科学者、技術者が宇宙で使われた器具が汚染されていないかどうか検査するのにライセート試薬が使用されています。
カブトガニの個体数が減少
ライセート試薬を生産するために、毎年製薬会社によって約50万匹のカブトガニが捕獲され、その血液が採取されています。
カブトガニに与えるダメージを少なくするために、抜き取る血液の量はカブトガニ体内の血液量の30%までとし、血液を採取されたカブトガニは、再び海へ戻されます。
戻されたカブトガニは数ヶ月で元の状態に戻りますが、約30%は死んでしまうそうです。
このようなことから、カブトガニの生息数は年々減少してきていて、カブトガニの絶滅を防ぐために、2016年にはライセートに代わる合成物質「リコンビナントC因子(rFC)」が開発されました。
ライセート試薬の代替品としてヨーロッパで認可されたのち、米国でもいくつかの製薬会社が利用し始めました。
まとめ
カブトガニが私たちの知らないところで人類に大きく貢献していることは非常に興味深いことですが、何億年も生き抜いてきたこの生きた化石が絶滅しないような方策を考えてほしいものですね。
岡山県の笠岡市に市立カブトガニ博物館があります。
この博物館は、世界で唯一のカブトガニをテーマにした博物館で、カブトガニに関する情報発信や保護、繁殖活動に取り組んでいます。
カブトガニについてもっと知りたい方は、カブトガニ博物館を見学されてはいかがでしょうか。本物のカブトガニを見ることができます。