バイオミメティクスの歴史と例


バイオミメティクスは生物模倣技術ともいわれ、生物の優れた機能や仕組みを人工的に再現することによって、工学、材料科学、医学などの様々な分野へ取り入れていく技術のことで、バイオミミクリーともいいます。

本記事では、バイオミメティクスの歴史や製品への応用例についてご紹介します。

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バイオミメティクスの例

競泳用水着

オリンピックで注目された競泳用水着では、水着の表面に鮫肌リブレットと呼ばれる構造が付けられ、これにより流体の抵抗摩擦が少なくなりました。

レース用のヨットの船体や航空機の機体にも貼られ、速度の向上や燃費節減に利用されています。

新幹線のパンタグラフ

500系新幹線のパンタグラフの形状は翼のような形をしています。その両脇にはギザギザが付いていて、この構造が騒音の原因の一つである気流の逆流をなくし、騒音を劇的に低下させました。

この翼型パンタグラフは、獲物を捕る時に羽音をたてず静かに忍び寄るフクロウの翼の構造をヒントに設計されています。

痛くない注射針

蚊の針の直径は0.1mmでその先端は0.05mmほどの細さです。

この細さが人が痛みを感じる痛点をすり抜け、針先端部に付いているギザギザした構造により、皮膚を巻き込むことなく交互に少しずつ掘り進んでいくので、痛点への刺激は最小限に抑えられるので人間に気づかれることなく、血を吸い上げることができるのです。

関西大学では蚊の針の動きをまねることにより2015年に痛くない注射器を開発しました。

ヤモリの指を模倣した接着剤

壁や天井などどこでも自由に歩き回るヤモリの足先は、自身の体重を指一本で支えるほど強力な接着力を持ちつつ、歩行するときには簡単に剥がれますが、粘液などの足跡は残りません。そのような接着特性を人工的に造りだしたテープが商品化されています。

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シルクの人工血管

現在人工血管の材料として主に使われているのはポリエステルやフッ素樹脂です。

これらの人工血管は、直径6mm未満だと血栓ができやすいという問題があります。

カイコの繭は伸ばすと1200m以上にもなり、しかもこれが一本の糸で作られています。

カイコがつくるシルクは同じ太さの鋼鉄線よりも強いのです。

東京農工大学では30年シルクの強さを研究し、カイコの糸で作った人工血管を研究しています。

人間の血管には強い圧力がかかりますが、シルクで作った人工血管はそれに耐える強さがあります。

ラットを使った実験ではフッ素樹脂製の直径1.5mmの人工血管では短期間で血栓ができるのですが、シルク製の人工血管では85%のラットで1年後も詰まらず機能しました。

しかも、ラットの体内で、シルクが分解して血管の主な成分であるコラーゲンに置き換わるリモデリングという現象が起こり、血管が再生されることも分かりました。

この実験では繭から直接取った非常に細い糸を使ったのでシルクの分解性が高くなり、リモデリングが起きたのだと考えられます。

トンボの羽から生まれた風力発電

風力発電で一番の問題となるのが台風などの強風に耐えることです。

そのためには頑丈な構造が必要となり、多くの費用がかかります。

また、風車の多くは、常に一定の速度で同じ方角から吹く風に対応した構造となっているので、風の強弱や様々な方向から吹く風に対応できる低コストの風車が求められています。

日本文理大学ではトンボのハネからヒントを得て、台風に耐える強さと大幅なコストダウンを両立させたマイクロ・エコ風車という未来の風車の研究を行っています。

トンボのハネがどのような原理で揚力を得ているのかを調べるために、小さな物体の周りの遅い流れを見ることができる回流式可視化水槽を開発し、トンボが飛ぶメカニズムを解明しました。

その結果、台風にも耐えられ、秒速30cm程度の微風でも回転することができる、ケント紙1枚で作られた風車を開発しました。

大型風車で問題となっている低周波騒音も発生しません。

カワセミのくちばし形状をまねた新幹線先頭形状

500系新幹線の先頭形状はカワセミのくちばしの鋭い形状をまねて設計されていて、高速でトンネルに突入する時に出るドンという騒音問題を解決しました。

ミツバチの巣(ハニカム構造)

ミツバチの巣の断面は正六角形のハニカム構造をしています。

ハニカム構造は軽くて頑丈なだけでなく、音を吸収したり、衝撃を吸収したり、断熱したりする機能もあることが分かっています。

飛行機の翼や壁、靴のクッションなどはハニカム構造で作られています。

バイオミメティクスの歴史

バイオミメティクス(バイオミミクリー)は最近脚光を浴びてきた研究分野のように思われていますが、その概念はとても古いものです。

1935年にナイロンが発明されましたが、これはまさに絹糸をまねた繊維です。

化学の分野では1930年代にバイオミメティクスの歴史が始まっているのです。

バイオミメティクスという言葉そのものは1950年代の後半に生まれました。

衣服にくっつく野生ゴボウの実をヒントにしてつくられた面ファスナー(マジックテープ)や、ハスの葉が水をはじく性質を利用した撥水性塗料、イカの神経系の研究によって生み出されたシュミット・トリガーと呼ばれるノイズ除去用電子回路などは、初期のバイオミメティクス製品の代表例です。

21世紀に入るとナノテクノロジーをきっかけに新世代のバイオミメティクスが登場します。

電子顕微鏡が安価で入手できるようになり、例えば、昆虫採集をして、その表面を拡大して見てみると、今までは分からなかったような構造や機能が見えてきて、それが新しい材料の開発につながるというような流れが、2000年あたりから始まっています。

以上、バイオミメティクスの製品例と歴史についてご紹介しました。

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